飲泉の糖尿病への効果

飲泉が糖尿病に効くって本当なの?

飲泉は、文字通り温泉水を飲むことを指します。ヨーロッパ諸国は古くから飲泉が体に良い作用を持っていることが注目され、現在も飲泉が盛んです。温泉地が医療と結びついた療養地となっているケースも多く、とても長い歴史を持っています。

日本でも近年飲泉の健康効果に注目され、飲泉所を設置する温泉地や施設が増えてきています。飲泉がなぜ、健康に良いと言われているのか、また糖尿病にも効果があるという話は本当なのか明らかにしてきます。

入浴と同じように体に作用する

北海道大学保健管理センターの大塚吉則氏をはじめとする4名が行った実験によると、飲泉は糖代謝にも非常に良い影響をもたらすことが明らかになっています。
温泉水は川湯温泉とあすかの湯の2種類で、1回の飲泉効果を調べる目的で調査されました。その結果、川湯温泉を飲泉後は、水道水を飲用した後に比べて血糖値の上昇が抑えられ、長期効果も得られたそうです。あすかの湯でも、血糖値の改善が認められました。
これらの結果から、飲泉は糖尿病の血糖値の改善効果が期待できるとして、禁忌症がなければ試みて良い治療法だと提言しています。

有効成分が豊富

線質により含まれている成分の種類や量は異なりますが、温泉には血糖値に対して有効な成分も多く含まれています。胃炎や血糖コントロールに良いと言われる炭酸水素塩泉や、インスリンの生成を促す働きを持つ硫黄泉などです。

主な有効成分

  • マグネシウム
  • カルシウム
  • 硫酸イオン(サルフェート)
  • 炭酸水素イオン

近くに飲泉地がある人はそこへ、ない人はペットボトルの温泉水などを

飲泉は高い効果が期待できると言われていますが、どこの温泉でも飲めるわけではありません。日本では保健所から温泉の飲用許可を得ることになっています。温泉が口から直接体内に入るので、新鮮な温泉を飲むことも絶対条件です。必ず、飲泉所などの飲泉施設の温泉を飲むようにしましょう。

とはいえ、飲泉施設は限られています。身近に飲泉施設がない人の方がほとんどでしょう。こうした方は、温泉水を無菌パッケージしたペットボトル型の温泉水を活用するのもおすすめです。

泉質によって違う飲泉の効果

泉質の違いによって期待できる効果にどのような違いがあるのかを調査しました。禁忌症もありますので飲泉をする場合は特に注意して正しい知識を身につけるようにしてください。

主な温泉水の泉質

  • 単純温泉
  • 塩化物泉
  • 炭酸水素塩泉
  • 硫酸塩泉
  • 二酸化炭素泉
  • 含鉄泉
  • 酸性泉
  • 含よう素泉
  • 硫黄泉
  • 放射能泉

塩化物泉は胃腸病や慢性便秘によいとされ、硫酸塩泉には傷みを和らげる鎮静作用、含鉄泉には更年期障害に効くなど泉質によって効果はさまざまです。この中で糖尿病への効果が期待できるのは硫黄泉とカルシウム・マグネシウムを多く含む炭酸水素塩泉です。これらは含まれる成分の性質上、飲用した場合に効果があると考えられています。

飲泉で得られる効果と注意点

温泉はミネラル成分が豊富に含まれており、泉質によっては糖尿病に限らず痛風や高コレステロール血症、胃十二指腸潰瘍などに効果が期待できる成分が含まれています。入浴すればリフレッシュ効果もあるので健康のために温泉を利用する人も多くいます。
飲泉すると直接体内に成分を取り込むことになるため高い効果が期待できますが、注意すべき点もあります。どれだけ糖尿病に効果がある成分が含まれていても、濃すぎたり衛生・安全面で飲用を許可されていない温泉が多いということです。
また飲泉できても必ず誰にでも効果があると保証されるものではありません。体質によっては胃腸に負担をかけてお腹を壊してしまったり、かえって症状を悪化させてしまうことがあることも理解しておかなければなりません。

日本と海外における飲泉の考え方

日本における飲泉

日本における飲泉の歴史は古く、日本書紀には持統天皇の時代に飲泉によって多くの病者を治療したという記述があります。江戸時代中期以降は、温泉医学の原点と言われている「一本堂薬選續」(1738年)など、いくつかの文献に温泉飲用の効果や注意事項が記載されています。明治時代には、日本の温泉医学の父であるドイツ人医師ベルツの指導の下、群馬県・伊香保温泉などで飲泉が始まり、明治13年には、飲泉の適応症、飲泉量、飲泉施設などについて詳細に記述したベルツ著「日本鉱泉論」が発行されました。このように飲泉は古代から実施され、江戸時代中期には医学的な指導を下に実施されてきました。

現在は、各都道府県が温泉の飲用許可を出すことになっています。しかし、ヨーロッパの温泉地のように適切な飲泉の指導を温泉療法医の下で行っている施設は日本には殆どありません。環境省が飲泉の利用基準や注意事項を発表しているに留まっています。

歴史が非常に永いわりには、ヨーロッパ諸国と比べて実施されているケースが少ないのが現状ですが、近年は、飲泉所を設置した温泉地や温泉利用施設が少しずつ増えてきています。

海外(ヨーロッパ)における飲泉

ヨーロッパでは、ローマ帝国の拡大につれて各地に浴場が作られ、中世には庶民の憩いの場として利用されてきましたが、混浴による風紀の乱れや、伝染病の蔓延によって浴場がどんどん閉鎖される事態に。しかし、近代になると医学の発達によって温泉の治癒力が見直され、湯治場も復活しました。

ヨーロッパの温泉地では、通常温泉医の処方によって飲泉が行われています。医師の指示に従って決められた量の鉱泉水を飲んだり、定められた時間だけ湯につかったり、シャワーを浴びつつマッサージを受けたりと、温泉は病気の治療やリハビリを行う場所になっていて、温泉療養が医療行為として認められ保険も適用されています。飲泉をするための容器「飲泉カップ」に温泉を汲んでクアパークと呼ばれる保養公園を散歩しながら、少しずつ温泉を飲んでいきます。飲泉カップにも温泉地によって特徴があり、材質が陶磁器製やガラス製などがあります。最近ではプラスチック製のものもあるそうです。

温泉水の飲み方

飲泉のタイミングと量

夕食後から就寝前をなるべく避け、食前30分~1時間前、また空腹時に飲むと温泉の成分が体に浸透しやすく、効果が増します。温泉のある旅館に泊まった際は、夕食の前の1時間以内に温泉にゆっくり浸かって、飲泉もするのが最適です。

1回の量はコップ1杯までを目安にして、1日約200~1000mlがおすすめです。慣れるまでは大量に飲むと下痢になってしまうことがあるので注意してください。味にクセのあるものは、天然水で割ると飲みやすくなります。

注意事項

夕食後や就寝前は避けるようにしてください。また、飲酒時は絶対に飲んではいけません。飲酒した場合には、一晩寝てから、次の朝の朝食前に飲みましょう。

鉄飲泉直後は、タンニンを含むお茶を飲むのは避けましょう。タンニンは鉄の吸収を妨げます。また、歯も黒く染まってしまうので注意しましょう。

酸性泉は湯または水で薄めるか、ストローで飲むかしないと歯を傷めるので注意が必要です。

温泉は湧出後、時間とともにその泉質が変化します。硫化水素、鉄、二酸化炭素やラドンなど不安定成分を含むものは特に変化が大きいので、湧出している場所で新鮮なうちに飲むようにしましょう。温泉の持ち出しは、成分変化のほか、雑菌の繁殖などのおそれもあるのでやめましょう。

温泉水の泉質の種類

温泉は含まれている化学成分や、温度、液性(pH)、色、匂い、味、肌触りなどがそれぞれ異なり、様々な特徴があります。温泉の泉質は、含まれる化学成分の種類とその化学成分の含有量によって決められています。ここでは、温泉の泉質について紹介します。

塩化物泉

塩化物質が多い泉質は、塩辛い味がします。以前は日本で一番多い泉質でしたが、掘削技術の進歩によって新しい温泉が誕生した影響で、現在は日本の源泉の27%と、単純温泉に次ぐ数の温泉になっています。皮膚に塩分が付着することで汗の蒸発を防ぐため、良く温まり、湯冷めもしにくい泉質です。保温効果が高いのも嬉しい点です。ナトリウムイオンは、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌を促進させる働きがあるため、女性の更年期障害にも有効です。

炭酸水素塩泉

炭酸水素塩泉には、炭酸ナトリウムを含んでいる重曹泉と、カルシウムイオンやマグネシウムイオンを含んでいる重炭酸土類泉の2種類があり、アルカリ性の泉質です。皮膚の角質を柔らかくすることによって皮脂を浮かび上がらせるので、肌がなめらかになります。特に重曹泉は「美人の湯」と呼ばれます。重炭酸土類泉は、鎮静作用や炎症を抑える作用があり、アレルギー性疾患や慢性の皮膚炎に効果があります。日本の温泉では約5%と、数が少ない温泉です。

二酸化炭素泉(炭酸泉)

炭酸成分が含まれている炭酸飲料水のような泉質で、浸かると体に多くの泡がまとわりつく点が他の温泉と違うところであり、大きな特徴です。日本では珍しい泉質でもあります。高温になると二酸化炭素が気化してしまうため、温度はぬるめになっています。飲むとサイダーのような味わいがします。二酸化炭素泉は、二酸化炭素が肌から浸透するため、長く入ると一種の酸欠状態を起こす場合があります。温度がぬるめなので、つい長湯しがちになってしまいますが、浸かるのは15分程度にしておきましょう。

硫酸塩泉

続いては硫酸塩泉です。「硫酸」という言葉から、肌がヒリヒリする、刺激が強そうなイメージを持たれるかもしれませんが、そんなことはありません。お湯に浸かると、切り傷、やけど、慢性皮膚病に効果があると言われています。温泉の色は、無色透明で、飲んでみると少し苦味のある温泉で、糖尿病治療に適していると言われています。お湯に含まれているナトリウムやカルシウム、マグネシウムの量によって、ここからさらに細かく分類がされています。

酸性泉

酸性泉は、日本特有の泉質です。一般的には高温で、酸味があります。水素イオンを多く含んでいて強い酸性を示すので、刺激の強いお湯になっています。殺菌効果が高いので、「直しの湯」「仕上げの湯」と呼ばれています。飲用は絶対に避けてください。誤って飲用してしまうと胃がただれてしまうことがあります。薄めるなどの工夫をして飲用することで、慢性消化器病には効果が出る場合もありますが、注意が必要なのでむやみに飲まないようにしましょう。

硫黄泉

硫黄泉は匂いがきついので有名で、硫化水素ガス特有の匂いがします。人によって好き嫌いが分かれる温泉と言えるでしょう。 源泉は無色透明ですが空気に触れると酸化するため、ほとんどの温泉地では黄色くなっています。ガスの噴気口に黄白色の硫黄が結晶することで、「湯の花」と呼ばれる黄白色の沈殿物ができます。硫化水素ガスは金属を酸化させるので、アクセサリーは外して入浴するようにしましょう。硫化水素ガスの刺激は強めなので、高齢者や小さな子ども、虚弱体質の人には向きません。

放射能泉

放射能泉は、無色透明で微量の放射能を含んでおり、ラドン温泉、ラジウム温泉と呼ばれています。この他、ラドンの同位体のトロンを多く含むものは、同様にトロン温泉と呼ばれます。温泉に含まれる放射能は、気体の状態で体内に摂取され、肺から血液に入ります。その後全身をめぐり、ホルミシス効果を細胞に与える(極微量の放射能で生体の免疫機能を高める)ことができます。また、尿酸を尿から排出する作用もあり、「痛風の湯」とも呼ばれます。

鉄泉

鉄を含んでいる泉質です。湧出直後は無色透明ですが、含有される鉄分が空気に触れて酸化すると茶褐色になり、一般的にお湯の色は濁った褐色になります。鉄を含んでいるので、造血作用があり、鉄による電導率の効果によって身体の芯からぽかぽかと温まります。飲用は絶対禁止なので注意しましょう。ただし、貧血(鉄欠乏性貧血症)の人が飲用すると、胃酸の分泌を高めて鉄分を体内に取り込むという効果を期待できますが、多飲は禁物です。

飲泉の効果・効能と関係

温泉は入浴するだけでなく飲むことによって健康に良い効果があるとされていますが、ここでは各病気における飲泉の効果について説明しています。また、それぞれの病気に効果があるとされている泉質についても紹介します。

糖尿病

糖尿病における飲泉の効果に関してですが、炭酸水素塩泉の温泉水を飲むと、血糖状態が改善するという発表がされています。1日0.5リットルを4週間飲んだ後血液検査したところ、飲泉後の一定期間、血糖値を反映する血中グリコアルブミン値が下がったようです。西洋医学においても、血糖値が一定の数値まで下がらないと言われている糖尿病患者が、飲泉と運動をすることによって劇的に正常な数値まで下げたという例もあります。

糖尿病治療に効果があるとされている泉質は、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉、硫黄泉、放射能泉で、特に硫黄泉がおすすめとされています。硫黄泉は、代謝亢進から耐糖異常(糖尿病)、高コレステロール血症にその効用が認められています。

慢性的な便秘

胃の動き(蠕動運動)が悪くなると、食べ物がなかなか腸に届かないため、腸自体の動きも悪くなっていきます。その結果、便の中の水分が腸壁に吸収されてしまい、便が硬くなることが便秘の原因です。

温泉医学の研究によると、飲泉は体内の老廃物や毒素を排出させる効果があると言われています。温泉に含まれるミネラル等の温泉成分が、内臓の粘膜からそのまま体内に吸収されることにより、高い効果を得られるのです。温泉の中でも、二酸化炭素泉(炭酸泉)を飲むと、二酸化炭素が胃の毛細血管に入り込むので、それによって血管が広がり血流も増加します。胃の消化活動が活発になるのと同時に腸の働きも活発になり、便秘解消に繋がります。二酸化炭素泉(炭酸泉)の他にも、塩化物泉、硫酸塩泉、酸性泉、硫黄泉、放射能泉といった多くの温泉が便秘解消に良い効果があるとされています。

肥満

メタボローム解析の結果により、飲泉すると代謝がアップすると言われています。グルコースを消費してエネルギーを生み出す働きが強くなることで解糖系が亢進すること、また血中のアミノ酸濃度が減少してタンパク質分解が抑制されることがその理由とされています。また、腸内フローラ解析によって、飲泉後には腸内細菌が増加することが明らかになっており、その肥満防効果が証明されています。解糖系の亢進、タンパク質分解の抑制および肥満防止効果がある腸内細菌の増加といった飲泉による効果を介して血糖状態を改善させることができます。

数ある泉質の中でも、肥満解消には特に硫酸塩泉と硫黄泉が良いとされています。ダイエットに失敗して困っている人は一度飲泉による肥満解消を検討してみてはいかがでしょう。

慢性消化器病

過多の胃酸が胃潰瘍や十二指腸潰瘍、逆流性食道炎を引き起こすと言われていますが、空腹時にアルカリ性の「重曹泉」を飲むとそれを防ぐことができます。重曹泉の飲泉によって、胃酸が中和され、胃酸過多による胃痛や胃の不快感を緩和させることができます。

その一方で、胃酸が少なすぎても胃腸の働きが落ちてしまい、食欲不振につながってしまうので、その場合は「塩化物泉」、「炭酸泉」、「硫酸塩泉」の飲泉がおすすめです。特に炭酸泉は、胃の蠕動運動亢進作用や胃腸機能低下の効果があります。硫酸塩泉は、含有しているマグネシウムの効果によって、胆嚢を収縮させ、胆汁が消化管に分泌されやすくなり、消化管による食物の蠕動運動を活発にするため、便秘にも効果があるとされています。

痛風

血中の尿酸の量が多くなると、血液中に溶けきれなくなり足の親指の関節などの部位に尿酸の結晶が析出します。結晶化した尿酸によって炎症が起こり、激しい痛みが現れる病気が痛風です。

痛風に良いとされる炭酸水素塩泉は炭酸水素イオン(HCO3-)を含んでいます。炭酸水素イオンというのは重曹(NaHCO3)の成分でもあり、弱アルカリ性を示します。炭酸水素泉は飲泉することで、尿酸値を下げたり、また血液や尿をアルカリ性に近づけたりします。痛風の患者は尿酸が多く、血液や尿酸が酸性になっていますが、この酸性の改善につながります。尿酸は特に酸性の血液中や尿中で結晶化しやすいので、血液や尿のアルカリ性化が尿酸の結晶化を防止します。また、ラジウム温泉と呼ばれる放射線泉も「痛風の湯」という別名があるほど、痛風の症状改善に効果があると言われています。

胆石

胆石病の症状改善には、温泉療法として飲泉がよく行われています。温泉水で胆石を溶かすのではなく、胆石を十二指腸のほうに流したり、肝臓の解毒作用を高めたり、胆汁分泌を促すのが目的です。

飲用して胆石に効果があるとされるのは硫酸塩泉です。その特徴は血中に多くの酸素を送り込む作用があるため、保湿効果が大きく、創傷治癒促進効果もあることです。飲泉することで、胆汁の分泌が促進され、肝臓、膵臓の働きも活発になるので胆石に非常に効果的です。また、入浴によって慢性胆嚢炎、胆石症に効果があるとされているのは放射能泉だけです。そして、放射能泉は入浴だけではなく、吸入によっても効能を得ることができ、その効果は入浴による効果よりも高いと言われています。

TOP