アルコールと糖尿病の関係
「酒は百薬の長」という言葉がありますが、文部科学省の助成を受けて行われている大規模なコホート研究によっても、適度な量のアルコール摂取が糖尿病の発症を抑制する可能性は示唆されています。
しかし、その一方で過度な飲酒は糖尿病リスクを上昇させ、さらにアルコールによって肝臓や膵臓の機能に障害が生じた場合、糖尿病のコントロールがより一層に難しくなることも注意すべきポイントです。[※1]
そのため、まだ糖尿病を発症していない人や、血糖コントロールが良好で合併症もない患者に限っては、適度な飲酒が体に良いともいえますが、油断して飲み過ぎないよう節制を忘れてはいけません。
また、体質によってアルコールの影響も変わるため、他の人にとっての適量が、必ずしも自分にとって適量だとは限らない点も覚えておきましょう。
アルコール性の膵炎・肝炎で糖尿病が誘発される
日常的にお酒を飲み過ぎるせいで発症する病気の1つに、アルコール性の膵炎があります。
アルコール性膵炎は急性の膵炎ですが、これが繰り返されることで膵臓がどんどん破壊されていき、やがて慢性膵炎になります。
慢性膵炎になった膵臓では、インスリンを正常に分泌できなくなって血糖値を下げられなくなりますが、これは糖尿病予備軍や糖尿病の大きな原因です。なお、膵臓の異常が原因で発症する糖尿病(膵性糖尿病)は、血糖コントロールが難しい糖尿病になるため、注意しなければなりません。
また、飲み過ぎが肝臓に悪いことは有名ですが、アルコール性肝硬変にまで状態が悪化すると、インスリンが正常に分泌されていても肝臓へブドウ糖を貯蔵しておくことが難しくなり、さらに肝臓で分解されるべきインスリンが処理できなくなって慢性高インスリン血症が引き起こされます。慢性高インスリン血症の患者では、インスリンそのものの働きが弱まってしまうインスリン抵抗性が起こり、さらに肝臓へ貯蔵できなくなったブドウ糖が血中に残るため、血糖値のバランスを保てなくなって糖尿病へとつながります。これが、アルコールによる肝性糖尿病です。[※1]
低血糖の危険性を高めるアルコール
アルコールは、膵臓や肝臓の機能障害を通じて血糖値を上げるだけでなく、反対に低血糖発作のリスクも高めます。
アルコールによる低血糖発作は、特にアルコール依存症患者で多く見られるものですが、空腹状態や食事量が不充分なままアルコールを摂取することで、低血糖状態が引き起こされます。
これは、食事量が不足することで肝臓にあるグリコーゲンが減少し、さらにアルコール代謝の影響によって糖の産生が抑制されてしまうことが原因です。
なお、アルコールによる低血糖は、糖尿病治療のために血糖コントロールを行っている人でも起こりやすくなるため、空腹時に飲酒したり食べ物を食べずにお酒だけを飲んだりすることは避けなければなりません。[※1]
【コラム】適度な飲酒とはどの程度のアルコール量なのか?
アルコールが体内で及ぼす影響は非常に複雑であり、アルコールがどうして糖尿病リスクを低下させたり上昇させたりするかについて、確実なメカニズムはまだ解明されていません。
しかし数多くの研究から、健常者や適切に血糖コントロールが行われている人では、適度な飲酒が糖尿病の予防や改善に働くことも示唆されています。
ただし、厚生労働省の指針によれば、1日のアルコール摂取目安量は男性でおよそ20g、助成ではさらにその半量以下とされています。
この20gという数値は、例えばビールであれば中びん1本(500ml)程度、日本酒であれば約1合(180ml)、缶チューハイ(7%)であればおよそ1本に相当する量です。[※2]
とはいえ、この数値は年齢や体質によっても変わるため、1日20gまでのアルコール量であれば大丈夫と考えるのでなく、高齢者やお酒に弱い人はそれよりも量を控え、自分にあった適量を考えることが大切です。